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EST. 2026
中東
軍事ニュース | 中東・イラン

ハメネイ師の国葬始まる ― 子息モジュタバ師への継承、何が確定し何が未確定か

イラン・専門家会議の会合の様子
画像: イランの最高指導者を選出・監督する権限を持つ「専門家会議」の会合(2023年、資料写真)。Saeed Sajjadi / Fars News Agency, CC BY 4.0, via Wikimedia Commons

2026年7月、イランの最高指導者アリー・ハメネイ師(86歳とされる)を悼む国葬がテヘランで始まった。ハメネイ師は今年2月28日、米国とイスラエルによる対イラン攻撃の初日に、テヘランの拠点への空爆で死去したと英ガーディアン紙やアルジャジーラなど複数の主要メディアが伝えている。遺体は7月9日前後、生誕の地マシュハドで埋葬される見通しだ。焦点は、36〜37年間イランに君臨した最高指導者の後継体制にある。子息モジュタバ・ハメネイ師が後継とみなされているが、本人は父の葬儀にも公の場に姿を見せておらず、健康状態や正式な地位を巡って不透明感が漂う。折しも米国のトランプ大統領とイスラエルのネタニヤフ首相が近く会談するとみられる時期と重なり、中東情勢の焦点が交錯している。何が起き、何がまだ確定していないのかをQ&A形式で整理する。

7/3〜9
国葬〜埋葬(テヘラン→マシュハド)
マシュハド
埋葬地=ハメネイ師生誕の地
モジュタバ師
後継とされるが公の場に不在
100カ国超
参列国・地域(西側首脳は不在)

Q1. 何が起きているのか ― 数日にわたる国葬

イラン国営放送系のIRIBによれば、100カ国以上の代表が参列するとされる国葬が7月3日にテヘランで始まった(ガーディアン紙は開始を7月4日・6日間の日程と報じており、報道によって日数・開始日には幅がある)。棺はまずイラン最大級の礼拝施設の一つ、グランド・モサラに安置されて一般参拝を受け、その後テヘラン中心部を約10キロ練り歩く大規模な行進が行われた。棺はイラクの要人の要請でイラク側のシーア派聖地ナジャフ・カルバラも経由するとされ、最終的に7月9日前後、ハメネイ師の生誕地であるマシュハドのイマーム・レザー廟で埋葬される見通しだ。国葬の実行責任者を務めるモハンマド・レザー・アレフ第一副大統領は、この式典を「今世紀最も重要な出来事」であり1979年革命以降で最大の動員になるとの見通しを示した。規模は、1989年の初代最高指導者ホメイニ師の葬儀(推定1000万人が参列したとされる)を上回るとの見方もある。なお、当初は3月に埋葬式が行われる予定だったが、戦争が長引いたことで延期されたとも報じられており、国葬の日程そのものが戦況に左右されてきた経緯がある。国葬の期間は、シーア派がフサイン殉教を悼むムハッラム月と重なっており、イラン指導部はこの象徴性を強調している。ハメネイ師自身、死去直前の最後の演説の一つ(2月17日)で「私のような者は、ヤズィードのような者に服従しない」と述べ、米国への抵抗を暴君ヤズィードへの不服従になぞらえていた。国葬の演出は、この「屈しない」というメッセージを対外的に発信する狙いも兼ねているとみられる。

Q2. ハメネイ師はいつ、どのように死去したのか

ガーディアン紙・アルジャジーラの報道によれば、ハメネイ師は今年2月28日、米国とイスラエルによる対イラン攻撃の初日、テヘランの政府関連施設への空爆で死去したとされる。この攻撃では、生後14カ月だったハメネイ師の孫を含む複数の家族も死亡したと報じられている。この攻撃はその後、中東の広い範囲を巻き込む戦争の発端になったとされる。ただし、死去の正確な経緯・日時・被害の全容は、イラン政府や第三者機関による独立した検証を経たものではなく、現時点では複数の報道機関の取材に基づく情報にとどまる。当初は3月に埋葬される予定だったが、戦争の継続に伴い延期されたと伝えられている。本稿ではこうした報道内容を踏まえつつ、断定を避けて記述する。

Q3. 後継はどう決まる仕組みなのか ― 「世襲」ではなく専門家会議

まず押さえておくべきは、イランの最高指導者は憲法上、世襲によって継承される地位ではないという点だ。国民の直接選挙で選ばれる「専門家会議」(88議席、任期8年)が、最高指導者を選出・監督し、必要があれば解任する権限を持つ唯一の機関とされる。下図はイランの権力構造の概略で、専門家会議が最高指導者を選び、最高指導者が革命防衛隊(IRGC)や司法府、護憲評議会などを統括する一方、民選の大統領・議会(マジュレス)は最高指導者の監督下で日常の行政を担う、という二重構造を示している。

図:イランの権力構造(概略)― 最高指導者は「世襲」ではなく専門家会議が選出

専門家会議(88議席) 国民の直接選挙・任期8年/選出と監督の権限 選出・監督 最高指導者 現状:モジュタバ・ハメネイ師(有力視/未確定) 革命防衛隊(IRGC) 軍事・治安の中核組織 司法府・護憲評議会 立法審査・法運用を統括 大統領・議会(マジュレス) 民選・日常の行政運営 未確定・注意点 モジュタバ師は公の場に不在 正式な選出手続きは戦時下で不透明
図:イラン憲法上の権力構造をJSDLが簡略化して図示。実際の権力配分は最高指導者の意向・非公式な人脈にも大きく左右されるとされ、図はあくまで制度上の建前を示す。

今年3月、専門家会議のメンバーの一人であるミールバゲリ師は、後継候補について「大勢の一致」に達したと述べた一方、「なお解決すべき障害がある」とも語った。別のメンバーは、戦時下で対面での本会議開催が「現状では不可能」だとも述べており、通常の手続き通りに正式な投票が行われたのかどうかは明確ではない。ロイター通信などは専門家会議がモジュタバ・ハメネイ師を後継に指名したと伝えたが、この過程には異例づくめの要素が多い。

Q4. モジュタバ師は本当に後継「確定」なのか

アルジャジーラは7月3日の記事で、モジュタバ・ハメネイ師を「イランの現最高指導者」と記述しており、少なくとも一部メディアはすでに彼を事実上の後継者として扱っている。ただし、その地位を巡る不確実性は大きい。同師は父ハメネイ師を殺害したのと同じ2月28日の空爆で重傷を負ったとされ、負傷の程度は明らかになっていない。以後、文書での声明を数回発表したのみで(停戦交渉から距離を置きつつもその継続は容認する声明などが含まれる)、父の国葬にも「治安上の理由」で姿を見せないとインドの代理人が説明したと報じられている。米国のトランプ大統領は3月、モジュタバ師が後継となることは自分にとって「受け入れられない」と発言。イスラエルのカッツ国防相は今週、同師について「死の標的にした」と述べ、暗殺を示唆する発言をしたと伝えられる。こうした状況を踏まえると、モジュタバ師への継承は「有力視されているが未確定」という表現が現時点では最も正確であり、憲法上の正式な選出・承認手続きが実際にどう完結するのかは、なお見通せない。

確定していること/していないこと(現時点の整理)

  • 確定的とされる事実:ハメネイ師は2月に死去し、7月に数日規模の国葬が行われ、マシュハドで埋葬される見通し。100カ国超が代表団を派遣。
  • 報道により幅がある点:国葬の正確な日数(6日間/7日間)・開始日(7月3日/4日)。
  • 未確定・不透明な点:モジュタバ師の健康状態、専門家会議による正式な選出手続きの完了有無、同師が実際に最高指導者として公務を担えるかどうか。

Q5. なぜトランプ・ネタニヤフ会談の時期と重なるのか

米国のトランプ大統領とイスラエルのネタニヤフ首相は7月3日に電話会談を行い、近く米国内で会談することで合意したと報じられている。米メディアによれば会談は早ければ翌週にも実現し得るという。両首脳の直接会談は、2月11日以来となる。折しも米国とイランの交渉筋も、ハメネイ師の国葬が終わるまで協議を一時休止したと伝えられている。つまり、①イランの後継体制がなお固まらない空白期間、②数日にわたる国葬という対外発信の機会、③米イスラエル首脳が戦後のイラン政策を協議しうる会談、という三つが同じ時期に重なっている。トランプ氏がモジュタバ師を名指しで「受け入れられない」と述べ、イスラエルのカッツ国防相が同師への攻撃を示唆したのも、この文脈の中で読む必要がある。中東情勢の次の焦点は、国葬そのものよりも、その後に本格化するとみられる米イスラエルの対イラン方針協議にあるとも言える。

Q6. 世界は葬儀にどう反応しているか ― 100カ国超、しかし西側首脳は不在

アルジャジーラによれば、パキスタンのシャリフ首相、タジキスタンのラフモン大統領、アルメニアのパシニャン首相、ジョージアのカベラシビリ大統領のほか、トルコ副大統領、中国の全人代常務委副委員長、ロシアのメドベージェフ安全保障会議副議長(元大統領)ら多数の要人が参列するとされる。一方、ガーディアン紙によれば西側の首脳は招待されておらず、イラン外務省報道官は欧州諸国の対応を「歴史の誤った側に立っている」と批判した。参列した各国首脳の顔ぶれは、イラク・パキスタン・中央アジア・アラブ諸国の議会代表など、イランが依然として持つ地域的な人脈の広さを示す一方、欧米との断絶の深さも同時に映し出している。棺がイラクのナジャフ・カルバラを経由することも、シーア派ネットワークの結束を内外に示す狙いがあるとみられる。国葬期間中、イラン軍の中央司令部(ハータム・アル・アンビヤ)司令官アリー・アブドラヒ氏は、米国とイスラエルに向けて「いかなる誤算も避け、わが国への脅威・侵略には軍が厳しい報復で応じることを考えるべきだ」と警告する声明を発表しており、儀礼の裏側で軍事的な緊張が続いていることもうかがえる。

今回の一連の出来事が示すのは、イランという国が、戦争による最高指導者の死という前例のない事態に直面しながらも、宗教的権威と国家儀礼を総動員して国内外に「継続性」を演出しようとしている姿だ。同時に、後継者が公の場に一度も姿を見せないまま国葬が進行するという異例さは、その継続性の演出とは裏腹に、権力移行の実態がいかに不透明かを物語っている。専門家会議による正式な手続きの帰趨、モジュタバ師の公務復帰の有無、そして戦後の米イスラエル・イラン関係がどう再定義されるか。これらは互いに絡み合いながら、今後数週間のうちに中東情勢の輪郭を決めていくとみられる。

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この記事を書いた人
河野 通(かわの とおる/Veruhu)

日本戦略防衛研究ラボ(JSDL)主宰。公開情報(OSINT)をもとに、世界の軍事・安全保障情勢を一個人として調査・分析し、発信しています。運営者について →