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EST. 2026
中国
軍事ニュース | 中国・核戦力

中国、潜水艦から弾道ミサイルを太平洋へ ― 異例のSLBM試射に豪NZ日が懸念

中国海軍のType094(晋級)弾道ミサイル原子力潜水艦
画像: 中国海軍のType094「晋(ジン)」級弾道ミサイル原子力潜水艦(SSBN、資料写真)。パブリックドメイン, via Wikimedia Commons

2026年7月6日、中国海軍(人民解放軍海軍)が潜水艦から戦略ミサイル1発を太平洋の公海に向けて試射したと発表した。ミサイルは模擬弾頭を搭載し、指定された海域に正確に着弾したという。潜水艦から発射する弾道ミサイル(SLBM)を、中国が自国周辺ではなく遠く南太平洋まで撃ち込むのは極めて異例で、ニュージーランド・オーストラリア・日本の各政府が相次いで懸念を表明した。中国は「年次の通常訓練の一環」で「関係国には事前に通告した」「特定の国や目標を狙ったものではない」と説明している。何が起き、どのミサイルなのか、そしてなぜ「異例」と受け止められたのかを、順に整理する。

7/6
発射日(2026年)
潜水艦
発射母体(SLBM)
模擬弾頭
核弾頭ではなくダミー
南太平洋
着弾=公海の指定海域

何が起きたのか ― 事実関係

中国海軍報道官の王学猛(おう・がくもう)上級大佐によれば、人民解放軍海軍の潜水艦が「模擬弾頭を搭載した戦略ミサイルを太平洋の関連する公海に向けて発射し、指定海域に正確に着弾した」。王上級大佐はこれを「中国の年次軍事訓練計画に含まれる通常の一環」と位置づけ、「関係各国には事前に通告した」「国際法と慣行に沿ったもので、特定の国や目標に向けたものではない」と述べた。中国は試射したミサイルの種類(型式)は明らかにしていない。

下の地図が示すとおり、太平洋は東アジアと南北アメリカ大陸の間に広がる世界最大の海洋である。中国が今回ミサイルを撃ち込んだのは、その南側――オーストラリアやニュージーランド、太平洋島嶼国が点在する南太平洋方面の公海だとされる。自国の演習場や近海ではなく、数千キロ離れた他国の「近所」の海に長距離ミサイルを落とした点が、周辺国の神経を逆なでした。

太平洋の位置を示す世界地図
画像: 太平洋の位置(濃く塗られた海域)。中国が発射したのはこの南側、南太平洋方面の公海とされる。パブリックドメイン, via Wikimedia Commons

どのミサイルか ― JL-2かJL-3か、そしてType094

中国は型式を伏せたが、専門家の間では搭載母体と射程からある程度の絞り込みができる。人民解放軍海軍が運用するSLBMは、旧世代の「巨浪(JL)2」と新世代の「巨浪(JL)3」の二種類。このうちJL-3は、中国近海(南シナ海を含む)から米本土に届くだけの射程を持つとされる。これらを搭載する中核の戦略原潜が、今回の資料写真にも写っているType094「晋(ジン)」級で、中国は6隻を保有するとみられている。米戦略国際問題研究所(CSIS)のミサイル防衛プロジェクトによれば、JL-3は2018年に初めて試射され、翌2019年にもう一度発射が確認されている。

表:中国海軍のSLBMと搭載原潜(公開情報に基づく推定値)

項目 巨浪2(JL-2) 巨浪3(JL-3)
世代旧世代新世代
推定射程約7,000km級1万km超級(米本土到達が可能とされる)
搭載母体Type094「晋」級 原子力潜水艦(SSBN、推定6隻)
確認された試射配備済み2018年に初試射、2019年にも(CSIS)
表:CNN報道およびCSISミサイル防衛プロジェクト等の公開情報をもとにJSDL整理。射程は各種推定であり、公式値ではない。今回の試射で使われた型式は中国が非公表。

要するに、今回の一発が旧型のJL-2なのか新型のJL-3なのかは断定できないが、いずれにせよ「潜水艦から発射し、遠方の海域に精密に着弾させる」という戦略核戦力の中核能力を、中国が実海域で示した出来事だと言える。核抑止において潜水艦発射のSLBMは、地上の発射基地と違って所在を秘匿しやすく、報復(第二撃)能力の要とされる。その運用練度を対外的に見せること自体に、抑止上の意味がある。

中国はこの数年、戦略原潜そのものの増強も続けている。米シンクタンクの分析では、中国は近年かつてない速さで潜水艦を建造しているとされ、Type094の後継として、より静粛で探知されにくい次世代型(Type096とされる)の登場も取り沙汰される。海中に隠れて移動できるSSBNは、先制攻撃で一挙に無力化されにくく、報復の確実性――すなわち抑止の信頼性を支える。中国が外洋でその運用を誇示することは、単なる訓練以上に「海に隠れた第二撃能力は健在だ」という対外的なメッセージの性格を帯びる。

各国はどう反応したか

反応が最も強かったのは、発射先に近い南太平洋の国々だ。ニュージーランドのウィンストン・ピーターズ外相は、中国が「南太平洋非核地帯」にミサイルを撃ち込んだと指摘した。この地帯は1986年のラロトンガ条約で設けられたもので、中国も1987年に議定書II・IIIに署名している。議定書は、締約国に対し地帯内の国への核兵器の使用・威嚇を控えること(II)や、地帯内での核実験の禁止(III)を求めている。ピーターズ外相は今回の発射を「歓迎できない、懸念すべき動きだ」とし、「私たちは太平洋の隣人と同様、中国が南太平洋をミサイル能力の試験場に使うことに関心はない」「こうした試験が常態化・恒常化するのを、地域として座視すべきではない」と述べた。

オーストラリアのペニー・ウォン外相も、今回の試射を「地域を不安定化させるものだ」と批判。「透明性と、意図についての安心材料を欠いた、中国の急速な軍拡という文脈のなかで見なければならない」と述べ、意図の説明は中国側に委ねるとした。日本政府も「中国の軍事活動の活発化に対する重大な懸念」を表明し、弾道ミサイルの試射を再考するよう北京に求めた。

3か国の反応(要点)

  • ニュージーランド:南太平洋非核地帯への発射。「歓迎できない」「試験場にするな」「常態化を座視しない」。
  • オーストラリア:「地域を不安定化させる」。透明性を欠く急速な軍拡の一環と位置づけ。
  • 日本:「中国の軍事活動の活発化に重大な懸念」。弾道ミサイル試射の再考を要求。

ただし一点、慎重に区別しておきたい。今回撃たれたのは模擬(ダミー)弾頭を積んだミサイルであって、核爆発を伴う「核実験」ではない。したがって非核地帯の議定書に直ちに違反すると断じられるわけではなく、周辺国の反発も「条約違反」ではなく「地帯への長距離ミサイル発射という行為が招く懸念」を軸にしている。中国側は事前通告と国際法適合を強調しており、この点は主張が対立している。

事前通告そのものも、繰り返し摩擦の火種になってきた。今回、中国は「関係国に事前通告した」と強調し、NZのピーターズ外相も「本日早く、中国から南太平洋へ長距離弾道ミサイルを発射する計画を知らされた」と認めている。ところが2024年に中国が太平洋へICBMを撃った際には、日本・オーストラリア・ニュージーランドが「事前の警告は受けていない」と反発した経緯がある。通告の有無とその十分さが発射のたびに問われ、透明性をめぐる不信が、中国の「通常訓練」という説明と周辺国の「不安定化」という評価の溝を広げている。

なぜ「異例」なのか ― 2024年の前例と核戦力の増強

中国はふだん、ミサイル試射を自国の内陸(西部の砂漠地帯など)で行い、その事実を公表することも少ない。それが今回は、潜水艦から、しかも遠い南太平洋の公海へ向けて撃ち、海軍報道官が自ら発表した。この「外洋への発射+公表」という組み合わせ自体が珍しい。ピーターズNZ外相も、2024年に中国が同じ太平洋方面へ大陸間弾道ミサイル(ICBM)を試射したことを引き合いに、当時の記憶がよみがえると述べている。

その2024年9月の試射では、中国は海南島から模擬弾頭付きのICBM(DF-31Bとされる)を太平洋の公海(仏領ポリネシア近海)へ発射した。中国が外洋へICBMを撃ち込んだのは実に44年ぶりのことだった。さらに同年12月には、西部の訓練基地からICBMを連続発射し、地下サイロからの急速な発射能力を誇示したとされる。米国防総省の2025年12月の中国軍事力報告は、こうした試射を人民解放軍が「中〜高強度の核抑止作戦の一つの選択肢」と位置づけている、と分析している。中国の核弾頭数は近年急増しており、米国防総省は将来的に大幅な増加を見込む。今回のSLBM試射も、拡大する中国の核・ミサイル戦力を背景に読む必要がある。

もっとも、ミサイル試射そのものは核保有国にとって珍しい行為ではない。報道によれば、米海軍も昨年9月にフロリダ沖でトライデントSLBMを4回試射しており、インドは昨年12月に、ロシアは昨年10月にそれぞれSLBMを発射している。核抑止力を維持する国は、定期的に運用試験を行う。問題は「試験をしたか否か」よりも、「どこへ、どのように撃ち、それをどう受け止められたか」にある。今回は、発射先が他国の近い海であったこと、公表を伴ったこと、そして中国の軍拡への警戒が高まる時期に重なったことが、反応を大きくした。

数字と主張をどう読むか

本稿の事実関係は、中国海軍の発表と、それを報じた国際メディア、および各国政府の公式コメントに基づく。ミサイルの型式・射程・飛翔経路や着弾点の詳細は、中国が公表していないか、外部の推定にとどまる部分が多い。中国側は「通常訓練・事前通告・国際法適合・特定の国を狙っていない」と説明し、周辺国は「不安定化・不透明」と評価しており、同じ出来事への評価が正面から食い違っている。こうした場合、一方の主張を鵜呑みにせず、確認できる事実(潜水艦から南太平洋方面へ模擬弾頭ミサイルを発射し、複数国が懸念を表明した)と、推定にとどまる事項(型式・射程など)とを分けて読むのが妥当だ。

日本にとっての意味

この一件は、日本の安全保障にとっても他人事ではない。潜水艦発射のSLBMは所在を隠しやすく、探知・追尾が難しい。中国がその運用練度を外洋で高めているという事実は、地域の核バランスと、これに対する抑止・防衛のあり方に静かな影響を及ぼす。日本政府が即座に「重大な懸念」を示し再考を求めたのは、東シナ海・南西諸島での中国艦艇の活動常態化(本サイトでも既報)と併せ、海洋方面での中国の軍事活動全体を注視しているためだ。前線の派手な衝突ではないが、こうした「訓練」という形の能力誇示こそ、長い目で地域の力関係を形づくっていく。今後の型式の判明や、周辺国の追加反応も含め、静かに追い続けたい。

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この記事を書いた人
河野 通(かわの とおる/Veruhu)

日本戦略防衛研究ラボ(JSDL)主宰。公開情報(OSINT)をもとに、世界の軍事・安全保障情勢を一個人として調査・分析し、発信しています。運営者について →