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EST. 2026
軍事ニュース | 日本・NATO

日NATO防衛協力が加速 ― 防衛相会談・NSATUへの自衛官派遣・海自の共同訓練を読む

地中海を並走するイタリア・トルコのフリゲートと海上自衛隊の練習艦かしま・しまかぜ
地中海で並走するイタリア海軍フリゲート「カルロ・マルゴッティーニ」、トルコ海軍フリゲート「サリフレイス」と、海上自衛隊の練習艦「かしま」「しまかぜ」(2022年6月6日)。日NATOの艦艇共同訓練はこの頃から段階的に積み重ねられてきた。写真: NATO photo by Lt. Michelle Tucker(パブリックドメイン)via Wikimedia Commons

NATO首脳会合がトルコ・アンカラで開かれた7月上旬、日本とNATO(北大西洋条約機構)の防衛協力に関わる動きが立て続けに表面化した。7月7日には、首脳会合の関連行事に日本の防衛大臣として初めて出席した小泉防衛大臣が、NATOのシェケリンスカ事務次長と会談。防衛省の発表からは、NATOのウクライナ支援組織「NSATU」への自衛官派遣が進んでいることも読み取れる。そして7月10日、海上自衛隊は「日NATO共同訓練」の実施を発表した。一つひとつは小さな記事にしかならない出来事だが、並べてみると、日本とNATOの関係が「対話」から「実務」の段階へ静かに移りつつあることが見えてくる。本稿では、この1週間の3つの動き――会談・派遣・訓練――を手がかりに、日NATO防衛協力の現在地を整理したい。

この1週間の日NATO関連の動き(要点)

  • 7月7日:小泉防衛大臣がアンカラでシェケリンスカNATO事務次長と会談。防衛装備・産業協力と、NSATUへの自衛官派遣の進展を双方が歓迎。
  • 7月7日:日本の防衛大臣として初めて、NATO首脳会合の関連行事に出席。
  • 7月10日:海上自衛隊が「日NATO共同訓練」の実施を発表(同じ週に日米共同訓練〈7/8〉、日・バヌアツ共同訓練〈7/7〉も発表)。

動きその1 ― 「初めて」が付いた防衛相会談

まず会談から見ていこう。防衛省の発表によれば、小泉防衛大臣は7月7日(現地時間)、NATOアンカラ首脳会合の関連行事に出席するためトルコを訪問し、NATOのシェケリンスカ事務次長と会談した。発表文の中核部分は次のとおりだ。

小泉大臣とシェケリンスカ次長は、地域情勢について意見交換するとともに、防衛装備・産業協力や、NSATU(NATO対ウクライナ安全保障支援・訓練組織)への自衛官派遣といった日NATO防衛協力の進展について歓迎しました。

防衛省「シェケリンスカNATO事務次長との会談について」2026年7月7日 出典

短い発表だが、注目点は二つある。第一に、シェケリンスカ次長が「NATO首脳会合の関連行事に小泉防衛大臣を日本の防衛大臣として初めて迎えることができて嬉しい」と述べたと記されていることだ。日本の首相がNATO首脳会合に出席した例は2022年のマドリード会合以降いくつかあるが、防衛大臣が首脳会合の関連行事に出席するのは今回が初めてとされる。外交の世界で「初めて」の肩書が付く出席は、単なる儀礼ではなく、関係の格上げを内外に示すシグナルとして使われることが多い。

第二に、協力の中身として「防衛装備・産業協力」が明示されたことだ。今回のアンカラ首脳会合では、欧州の防衛産業強化と多国間の共同調達が大きなテーマになった(首脳会合そのものの分析は既報を参照されたい)。弾薬や無人機などの生産基盤を急ピッチで広げようとする欧州にとって、日本の製造業は潜在的なパートナーであり、逆に日本にとっても、防衛装備移転の販路と生産協力の相手として欧州の重みは増している。装備・産業協力が防衛相会談の議題として明記されるのは、そうした双方の思惑の反映と読める。

動きその2 ― NSATUへの自衛官派遣という一歩

発表文にさらりと書かれた「NSATUへの自衛官派遣」は、今回の3つの動きの中でも特に意味が大きいと筆者は考えている。NSATU(NATO Security Assistance and Training for Ukraine)は、ウクライナへの装備支援と訓練の調整をNATOとして一元的に担うため、2024年の首脳会合での合意を経て設けられた組織で、司令部はドイツのヴィースバーデンに置かれているとされる。それまで米国主導の有志国会合(いわゆるラムシュタイン会合)が担ってきた支援調整の役割を、NATOの常設組織として制度化したものだ。

ここに自衛官を派遣するということは、日本がウクライナ支援の「調整の輪」の内側に、人を置いて参加することを意味する。日本は武器そのものの供与には憲法・政策上の制約から慎重な立場を保ってきたが、支援全体の情報を共有し、非殺傷分野での貢献を調整する立場は確保する――そういう関与の形だと解釈できる。派遣の規模や役職は公表されている範囲では明らかでなく、少人数の連絡要員にとどまる可能性が高いが、NATOの軍事組織の中に自衛官が常駐する枠組みが一つ増えること自体、10年前には考えにくかった変化と言ってよい。

動きその3 ― 海自の「日NATO共同訓練」

そして7月10日、海上自衛隊は「日NATO共同訓練について」と題するプレスリリースを公表した。海自の発表一覧を見ると、この週は7月7日に日・バヌアツ共同訓練、8日に日米共同訓練、10日に日NATO共同訓練と、共同訓練の発表が3件並んでいる。太平洋島嶼国から米国、そしてNATOまで、訓練相手の幅そのものが、海自の「多角化」を物語る。

日NATOの艦艇共同訓練には前史がある。防衛省は2022年6月、地中海で海自練習艦部隊とNATO常設海上部隊が共同訓練を実施したと発表した。ロシアのウクライナ侵攻が始まった年であり、冒頭の写真――イタリア・トルコのフリゲートと練習艦「かしま」「しまかぜ」が地中海を並走する光景――はまさにその場面を捉えたものだ。以後、海自の遠洋練習航海やインド太平洋方面派遣(IPD)の機会を利用して、NATO加盟国海軍との訓練は断続的に積み重ねられてきた。今回の訓練の参加艦艇や海域の詳細は原文のPDF発表に譲るが、「日NATO」と冠する訓練が定例的な発表事項になりつつあること自体が、関係の定着を示している。

共同訓練と聞くと華々しい実弾射撃を想像しがちだが、この種の訓練の価値はむしろ地味な部分にある。異なる国の艦艇が一緒に動くには、通信の手順、戦術信号の解釈、隊形運動の約束事、洋上補給の器材規格といった無数の「作法」を合わせる必要がある。NATOはこの作法を標準化文書として体系化しており、日本のような非加盟のパートナーにとって、共同訓練はその作法を身体で覚える数少ない機会だ。将来、災害救援や海上交通の保護といった場面で実際に協力が必要になったとき、初対面の艦隊同士が戸惑わずに動けるかどうかは、平時の訓練の蓄積で決まる。

図解:日NATO防衛協力の3つの層

政治・対話 首脳・防衛相の 相互往来 ITPP(個別調整 パートナーシップ計画) 例:7/7 防衛相会談 組織・人 NATO組織への 自衛官派遣 連絡官・情報共有の 枠組み 例:NSATUへの派遣 部隊・現場 艦艇・航空機の 共同訓練 相互運用性の 積み上げ 例:7/10 日NATO共同訓練 3つの層が同じ週にそろって動いたのが今回の特徴
JSDL作成。公開情報にもとづく整理。

そもそも日NATO関係はどう積み上がってきたか

今回の3つの動きは、突然現れたものではない。日本とNATOの対話は1990年代から細く続いてきたが、質的に変わったのはロシアのウクライナ侵攻後だ。2022年のマドリード首脳会合に日本の首相が初めて出席し、以後、日本・韓国・オーストラリア・ニュージーランドの4か国は「IP4(インド太平洋パートナー)」としてNATO首脳会合の常連になった。協力の中身も、2023年には従来の協力文書を「国別適合パートナーシップ計画(ITPP)」へ格上げし、サイバー防御、偽情報対策、宇宙、新興技術など16分野で具体的な協力項目を定めている。

一方で、限界も経験してきた。NATOが検討した東京連絡事務所の開設構想は、一部加盟国の慎重論もあって実現していない。NATOはあくまで北大西洋の集団防衛機構であり、その活動の重心を急にインド太平洋へ広げることには、同盟内にも温度差がある。日NATO協力が「事務所」のような象徴的な看板よりも、共同訓練や人の派遣といった実務の積み重ねを先行させているのは、この現実を踏まえた進め方だろう。今回の「防衛大臣として初の首脳会合関連行事出席」も、派手な制度化ではなく出席者の格を一段ずつ上げていく、漸進路線の延長線上にある。

背景 ― 「米国が引く欧州」と日本

なぜ今、日NATOの実務協力がこのテンポで進むのか。背景には、大西洋と太平洋の両方で進む構造変化がある。欧州側では、米国が欧州駐留戦力の見直しを進める中、NATOは国防費の大幅増と防衛産業の拡張を急いでいる。米国への依存を減らしたい欧州にとって、日本や韓国、オーストラリア、ニュージーランドといったインド太平洋のパートナー(いわゆるIP4)は、装備・技術・生産能力の面で組む価値のある相手だ。

一方の日本にとっても、NATOとの協力は単なる「欧州へのお付き合い」ではない。ウクライナ戦争は、欧州の戦争が資源・エネルギー・弾薬市場を通じてインド太平洋の安全保障環境に直結することを示した。また、ロシアと北朝鮮の軍事協力が深まる中で、欧州正面とインド太平洋正面の情報を突き合わせる必要性は増している。NSATUへの派遣も共同訓練も、この「二つの戦域はつながっている」という認識が実務のかたちを取ったものだ。

もっとも、過度な期待は禁物だろう。日本はNATOの加盟国ではなく、集団防衛の義務を負う関係にはない。共同訓練の多くは通信・戦術運動といった基礎的な内容にとどまり、NSATUへの派遣も規模は限定的とみられる。日NATO関係は「同盟」ではなく、あくまで相互運用性と情報共有の裾野を少しずつ広げる「パートナーシップ」であり、その歩幅も予算と人員の制約の中にある。それでも、対話・組織・現場の3つの層が同じ週にそろって動いたことは、この関係が儀礼の段階を過ぎたことを示す、確かな目印である。

今後の注目点を3つ挙げておきたい。第一に、NSATU派遣の中身が今後どこまで具体的に公表されるか。第二に、防衛装備・産業協力が構想から個別の共同事業へ進むか。第三に、日NATO共同訓練の頻度と内容が、通信訓練などの基礎段階からどこまで深化していくか。いずれも一つひとつは小さな発表として流れていくはずだが、この3つの物差しを持って眺めれば、日NATO関係の実質を継続的に測ることができるはずだ。

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この記事を書いた人
河野 通(かわの とおる/Veruhu)

日本戦略防衛研究ラボ(JSDL)主宰。公開情報(OSINT)をもとに、世界の軍事・安全保障情勢を一個人として調査・分析し、発信しています。運営者について →