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EST. 2026
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NATO、次世代の早期警戒管制機にスウェーデン製「グローバルアイ」を選定 ― E-3後継、最大10機

サーブ社の早期警戒管制機グローバルアイ(GlobalEye)
画像: サーブ社の早期警戒管制機「グローバルアイ(GlobalEye)」。ビジネスジェット「ボンバルディア・グローバル6500」に、背中の細長いレーダー(エリアイ拡張レンジ)を載せた機体。© Nick / from United Kingdom, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons

2026年7月7日、トルコの首都アンカラで開かれたNATO首脳会議の防衛産業フォーラムで、マルク・ルッテ事務総長は、老朽化した早期警戒管制機(AEW&C)E-3セントリー「AWACS」の後継として、スウェーデンのサーブ社製「グローバルアイ(GlobalEye)」を最大10機取得する方針を明らかにした。参加を表明したのは11か国。まだ契約は結ばれておらず、サーブとNATO支援調達庁(NSPA)が正式交渉に入る段階だが、「空の管制塔」を欧州製の機体で置き換えるという決定は、いくつもの意味で象徴的だ。米国製の定番だったAWACSの後継に欧州の機体が選ばれたこと、そしてその背景にある「米国抜きでも回り始めたNATO」という潮流を、数字で追ってみたい。

7/7
選定を発表(アンカラ首脳会議)
最大10機
グローバルアイの取得予定数
11か国
共同調達に参加
40年超
E-3運用開始(1982年)からの歳月

何が決まったのか

ルッテ事務総長の発表とサーブ社の声明を突き合わせると、今回の要点は次の三つに整理できる。第一に、NATOは共同保有するE-3AWACSの後継となる次世代AEW&C機に、サーブのグローバルアイを選んだ。第二に、取得規模は「最大10機」で、11の加盟国が共同調達に参加する。第三に、これはあくまで「選定(selection)」の段階であり、サーブはまだ契約も発注も受けていない。今後、NATO支援調達庁(NSPA)との間で価格や納期を詰める正式交渉が始まる。つまり「機種は決めた。これから契約を詰める」という節目である。

E-3セントリーは、ボーイング707を母体に背中へ大きな円盤レーダーを載せた、いわゆるAWACSの代名詞的な機体だ。NATOは1982年から共同部隊としてこれを運用してきたが、機体はすでに40年選手であり、維持費の増大と旧式化が課題になっていた。後継選びでは米ボーイングのE-7ウェッジテイルも有力視されてきたが、最終的に軍配が上がったのはスウェーデン製のグローバルアイだった。

飛行するグローバルアイのレーダー機
画像: 飛行するグローバルアイ。機体上部の平たいレーダーが「エリアイ拡張レンジ」で、これで空・海・地上を同時に見張る。© Airwolfhound from Hertfordshire, UK, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons

グローバルアイとは何か ― 「小さな機体で、遠くまで見る」

グローバルアイを一言でいえば、ビジネスジェットに強力なレーダーと管制システムを積んだ「空飛ぶ管制塔」である。母体はカナダ・ボンバルディア社の長距離ビジネスジェット「グローバル6500」。その背中に、サーブのエリアイ拡張レンジ(Erieye ER)レーダーを平たい棒状(バランスビーム型)に載せ、さらに各種センサーと多領域の指揮統制(C2)システムを組み合わせている。サーブによれば、この機体は空・海・陸を同時に監視でき、ステルス性の高い目標や無人機、弾道ミサイル・極超音速ミサイルまで、強い電子妨害(ジャミング)が飛び交う環境でも探知できるという(メーカー公表値で、実性能は運用条件による)。

従来のAWACS(E-3)が大型旅客機ベースの「大きくて高価な機体」だったのに対し、グローバルアイはビジネスジェットベースで機体が小さく、取得・運用コストを抑えやすいのが売りだ。「小さな機体で遠くまで見る」――センサーとコンピュータの進歩が、巨大な円盤レーダーを積んだ大型機を必ずしも必要としなくなった、という技術トレンドを象徴している。AEW&Cという装備そのものの仕組みや役割については、別稿「AEW&C(早期警戒管制機)とは」で基礎から解説しているので、あわせて読むと今回のニュースの意味が立体的に見えてくるはずだ。

表:後継候補と現行AWACSのざっくり比較(公開情報に基づく概略)

機体 母体 レーダー方式 位置づけ
グローバルアイ
(今回選定)
ボンバルディア・グローバル6500(ビジネスジェット)エリアイER(固定式・電子走査)小型・低コスト、多領域監視
E-3セントリー
(現行・退役へ)
ボーイング707(大型旅客機)回転式ロートドーム(円盤)1982年運用開始の定番AWACS
E-7ウェッジテイル
(有力対抗馬)
ボーイング737(旅客機)MESA(固定式・電子走査)英・豪などが採用(米は導入を計画)
表:各社・専門報道等の公開情報をもとにJSDL整理。レーダー探知距離などの詳細性能は非公開部分が多く、機体・型式で幅がある。

なぜ「米国製ではなく欧州製」が選ばれたのか

AWACSの後継に欧州の機体が選ばれたことには、単なるコストや性能を超えた文脈がある。近年、NATO欧州加盟国のあいだでは、「米国のプレゼンスがいつまでも当てにできるとは限らない」という危機感が強まっている。米国は世界の重心をインド太平洋や自国周辺へ移しつつあり、欧州は自分たちの防衛を自前でまかなえる態勢――いわゆる「戦略的自律」――を急いで整えようとしている。空の監視という中枢的な能力を、米国製ではなく欧州(スウェーデン)製でそろえる今回の決定は、その流れの一つの到達点といえる。

この「米国抜きで回るNATO」は、単なるスローガンではなく、支出の数字にも表れている。NATOの発表によれば、欧州の加盟国とカナダの2026年の中核的な国防支出は、前年比+11%増の約6,340億ドルに達し、過去最高となる見通しだ。前年(2025年)も大きく伸びており、NATOの集計では中核的な国防支出が約2割増えたとされる。加えて、アンカラの防衛産業フォーラムでは総額で数百億ドル規模の新規取引が発表され、ウクライナ支援でも欧州・カナダが巨額のパッケージを打ち出している。米国が担ってきた早期警戒・長距離打撃・弾薬供給といった「穴」を、欧州が自らの支出と調達で埋め始めている――その象徴の一つが、今回のグローバルアイ選定なのだ。

「米国抜きで回るNATO」を数字で見る(2026年7月)

  • 国防支出:欧州+カナダの2026年中核支出が約6,340億ドル、前年比+11%(過去最高)。
  • 装備調達:AWACS後継に欧州製グローバルアイを最大10機・11か国で共同取得。
  • 産業:アンカラの防衛産業フォーラムで多数の新規取引を発表。
  • ウクライナ支援:欧州・カナダが巨額の軍事支援パッケージを継続。
  • 含意:米国のプレゼンス縮小を見越し、監視・打撃・弾薬の「穴」を欧州が自前で埋める動き。

なぜE-7ではなく、グローバルアイだったのか

後継機選びで長く本命視されてきたのは、実はボーイングのE-7ウェッジテイルだった。E-7は旅客機737をベースに固定式の電子走査レーダー(MESA)を載せた機体で、すでにオーストラリア・英国・韓国などが採用し、米空軍も導入を計画してきた実績のある選択肢である。それでもNATOがグローバルアイに傾いた背景には、いくつかの要素があるとみられる。一つは、機体の規模とコストだ。グローバルアイは中型のビジネスジェットが母体で、大型旅客機ベースのE-7より小さく、取得・運用の費用を抑えつつ機数をそろえやすい。もう一つは、レーダーが空だけでなく海上や地上の目標も同時に見張る「多領域」志向で設計されている点である。ドローンや巡航ミサイル、海上の小型艇まで幅広い脅威を同じ機体で捉えたい、という現代の要求に合致していた。

加えて、欧州の防衛産業を欧州の調達で支えるという「政治」も働いた可能性がある。サーブはスウェーデンを代表する防衛企業であり、その基幹装備をNATOが共同で買うことは、欧州の産業基盤を厚くする意味を持つ。もっとも、性能・価格・納期の細部は今後の交渉で詰められるため、「なぜグローバルアイか」の全体像が公式に語られるのはこれからだ。ここでは、コスト・多領域性・欧州産業という三つの軸が働いたとみられる、という整理にとどめておきたい。

日本から見ると ― 「空の目」をどう確保するか

この話は、遠い欧州の装備選びにとどまらない。日本も同じ課題を抱えているからだ。航空自衛隊はE-767(大型AWACS)とE-2C/E-2Dといった早期警戒機を運用しており、広い空域を常時見張る「空の目」は、島嶼防衛でも弾道ミサイル警戒でも欠かせない。中国機・ロシア機の活動が活発化する南西方面では、こうした早期警戒能力の重要性がいっそう高まっている。NATOが「大型で高価な機体」から「小型で多くそろえられる機体」へ舵を切ったことは、限られた予算で監視網を広げたい各国にとって、一つの参考例になる。

もう一つ見逃せないのは、選ばれたのがスウェーデン製だという点だ。スウェーデンは2024年にNATOへ正式加盟したばかりの「新参」だが、その防衛産業がNATOの中枢的な監視能力を担うことになった。中立国だった北欧の技術力が、同盟の背骨に組み込まれていく――欧州の安全保障地図が塗り替わりつつあることを、この一件は静かに物語っている。「米国抜きでも回るNATO」が本物かどうかは、本サイトの情勢分析でも引き続き追っていきたい。

留意点 ― 「選定」と「配備」の距離

最後に冷静に押さえておきたい。今回はあくまで機種の「選定」であり、サーブ自身が「契約も発注もまだ受けていない」と明言している。価格・納期・最終的な機数は、これからのNSPAとの交渉で固まるもので、「最大10機」という数字も変わりうる。また、老朽化したE-3の退役と新機の配備が実際に完了するまでには、なお相当の年月がかかる。本稿はNATO事務総長の発表とサーブの公式声明、および複数の国際報道に基づくが、金額・機数・時期の細部は続報で確認したい。確かなのは、「NATOが空の監視という中核能力を欧州製で更新する方向に動いた」という事実であり、その決定が『欧州の防衛自立』という大きな潮流の一部だということである。

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この記事を書いた人
河野 通(かわの とおる/Veruhu)

日本戦略防衛研究ラボ(JSDL)主宰。公開情報(OSINT)をもとに、世界の軍事・安全保障情勢を一個人として調査・分析し、発信しています。運営者について →