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RESEARCH & ANALYSIS
EST. 2026
中国・ロシア
軍事ニュース | 中露連携・西太平洋

中露合同海軍演習「海上聯合2026」きょう最終日 ― 3つの発表を突き合わせて読む黄海と西太平洋

ウラジオストクに停泊するロシア太平洋艦隊のミサイル巡洋艦ワリャーグ
画像: ロシア太平洋艦隊の旗艦級ミサイル巡洋艦「ワリャーグ」(ウラジオストク、2010年撮影の資料写真)。今回の演習にロシア側は「ミサイル巡洋艦、フリゲート、潜水艦など」を派遣したと報じられている。米海軍撮影・パブリックドメイン, via Wikimedia Commons

中国とロシアの海軍による年次の合同演習「海上聯合(Joint Sea)2026」が7月6日に山東省・青島で始まり、本日7月13日が最終日となる。演習そのものは対潜戦・防空・捜索救難などを柱とする「例年どおり」の内容だが、今年は3つの発表が同時に飛び交った。中露両政府の公式発表、「演習後に一部艦艇が太平洋へ出て日本近海を通る見込み」と伝える日本メディアの報道、そして「第一列島線沿いに110隻超の中国艦船を把握、史上最多」とする台湾当局の観測である。それぞれの発表は、それぞれの立場から「見せたいもの」を見せている。本稿では3つの発表を突き合わせ、どこまでが確認できる事実で、どこからが割り引いて読むべき数字なのかを整理する。

7/6〜13
演習期間(黄海)
110隻超
台湾が把握した中国艦船(7/4時点)
4個編隊
西太平洋で活動する中国海軍(台湾発表)
7〜9月
中国軍の演習「熱季」(台湾国安局長)

発表①:中露は何を発表したか ― 「防御的で第三国に向けたものではない」

ロシア国営タス通信によれば、演習は7月6日、青島の中国人民解放軍海軍基地での開幕式で始まった。期間は7月6日から13日まで、海域は黄海。ロシア側の演習指揮官はセルゲイ・シンコ海軍少将、中国側は邱文生海軍少将が務める。開幕式の後、両国の幕僚・指揮官たちは港内で洋上での戦術行動や捜索救難などの任務遂行について協議を行った——いわゆる「港湾フェーズ(在港訓練)」である1

洋上フェーズの訓練科目としてタス通信が挙げるのは、合同捜索救難、対潜戦、防空、そして合同砲撃訓練だ。特徴的なのは、深海救難艇(DSRV)を使って「遭難した潜水艦」の乗員を救助する訓練が含まれる点で、海軍航空部隊の支援も付く。ロシア側指揮官のシンコ少将は開幕式で演習の性格について次のように述べた。

the drills are defensive in nature and are not directed against any third country.
(演習は防御的な性格のものであり、いかなる第三国に向けたものでもない)

タス通信(英語版)2026年7月6日、シンコ露演習指揮官の発言 出典(訳は引用者)

「第三国に向けたものではない」は、この種の演習で両国が毎回用いる定型句である。額面どおり受け取る必要はないが、少なくとも公式説明の上では、演習テーマは「海上の安全保障上の脅威への共同対処」とされ、青島近海の海空域での共同偵察やミサイル迎撃訓練が含まれると報じられている2

中国と周辺海域の地図。山東半島の南側に青島が位置し、黄海を挟んで朝鮮半島と向き合う
画像: 中国と周辺海域の地図。演習が行われた黄海は、山東半島(地図中央右の突出部)と朝鮮半島に挟まれた海域で、青島は半島南岸に位置する。地図: Uwe Dedering, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

発表②:日本の報道 ― 「演習後、一部艦艇は太平洋へ。日本近海を通る見込み」

読売新聞(英字系列のアジア・ニューズ・ネットワーク配信)は、参加戦力についてより具体的に伝えている。ロシア側はミサイル巡洋艦、フリゲート、潜水艦などを派遣し、中国側はミサイル駆逐艦、フリゲート、高速戦闘支援艦などで参加しているという。そして注目すべきは演習後の動きだ。同報道によれば、参加艦艇の一部は演習終了後に太平洋へ進出して「合同海上パトロール」を実施し、日本近海を航行する見込みとされる2

中露の合同海上パトロールは近年ほぼ毎年実施されており、過去には両国艦隊が日本列島を周回するように航行した例もある。演習(黄海)そのものより、その後のパトロールがどこを通るか——津軽海峡か、対馬海峡か、あるいは日本を周回するのか——の方が、日本にとっては実務的な関心事になる。この点は現時点では「見込み」の段階であり、実際の航路は防衛省統合幕僚監部の発表(艦艇の動静公表)で確認されることになる。本稿執筆時点で演習後のパトロールに関する公式発表は確認できていない。

発表③:台湾の観測 ― 「110隻超、史上最多」の中身

演習と同じタイミングで、より大きな数字を発表したのが台湾である。台湾の国家安全会議の呉釗燮(ご・しょうしょう)秘書長は7月4日、中国軍の艦艇と海警局の船が7月3日から海上での動員を始め、その規模が110隻を超えたとして、次のように述べた。

中國沿第一島鏈展開的大規模海上動員,正是其擴張主義的明確訊號,台灣已掌握超過110艘的中國軍艦與海警船,這已創下歷史新高。
(中国が第一列島線沿いに展開している大規模な海上動員は、まさにその拡張主義の明確なシグナルである。台湾はすでに110隻を超える中国軍艦と海警船を把握しており、これは史上最多を更新した)

呉釗燮・台湾国家安全会議秘書長、2026年7月4日の発信 出典(中央社)(訳は引用者)

呉氏は、中国の軍艦と海警船が黄海から東シナ海、西太平洋、南シナ海にかけて展開しているとする配置図もあわせて公開した3。さらに台湾の情報機関・国家安全局の蔡明彦(さい・めいげん)局長は7月6日、西太平洋でおよそ4個の中国海軍編隊が活動していると明らかにした。内訳は、南太平洋方面に1個、日本の奄美大島南方に2個、フィリピン東部サンタアナ沖に1個だという4。奄美大島の南方——つまり日本の南西諸島のすぐ外側——に2個編隊という位置関係は、日本にとっても他人事ではない。

数字を割り引いて読む ― 「熱季」と台風という2つの補助線

では「110隻超・史上最多」をどう受け取るべきか。実は、危機感を煽った当の台湾当局自身が、冷静な補助線を2本引いている。

1本目は「季節性」だ。蔡明彦局長は同じ7月6日の説明で、毎年7月から9月は中国軍、特に戦区レベルの定例演習の「熱季(ハイシーズン)」にあたると指摘した。つまり、この時期に艦艇の活動が増えること自体は例年のパターンの範囲内であり、今年が特別に異常というわけではない。同局長は「中国の海上での艦船動員には確かに増加傾向がある」とも述べており、「例年のパターンだが、水準は切り上がっている」というのが台湾側の公式な評価と読める4

2本目は「台風」である。蔡局長は、中国海軍・海警の艦船は東シナ海・台湾海峡・南シナ海で従来からおおむね100隻程度展開しており、南シナ海分については台風による避難・防護行動の可能性があると認めた。台湾のメディアでは、専門家が「海南島の軍港が拡張工事中で防護能力が落ちており、可動艦艇が出港して台風を避けた結果、洋上の隻数が膨らんだ」との見方を示している5。この説に立てば、「110隻超」のうちの一部は作戦的な展開ではなく、気象要因の一時的な出港ということになる。

どちらの解釈が正しいかを外部から断定することはできない。ただ、確認できる事実を並べれば、①中露は例年どおりの合同演習を黄海で実施した、②同時期に西太平洋の中国海軍の活動は例年の「熱季」水準を超えて観測された、③その一部には台風避難が混じっている可能性がある——という3点になる。「史上最多」という見出しだけを切り取るのでも、「台風のせい」と片付けるのでもなく、この3点をセットで持っておくのが、現時点では最も誠実な読み方だろう。

3つの発表の対照表

発表主体主な内容読むときの注意
中露両政府7/6〜13に黄海で合同演習。対潜・防空・捜索救難・合同砲撃。「防御的で第三国に向けたものではない」定型句どおりの公式説明。個別の参加艦名は公表されていない
日本の報道露はミサイル巡洋艦・フリゲート・潜水艦など、中はミサイル駆逐艦などで参加。演習後に一部が太平洋で合同パトロール、日本近海航行の見込みパトロールは「見込み」段階。実際の航路は統幕発表で確認
台湾当局第一列島線沿いに110隻超(史上最多)。西太平洋に4個編隊(奄美南方2個を含む)7〜9月は例年の演習「熱季」。台風避難分が含まれる可能性を台湾自身が認めている

黄海という場所、潜水艦救難という科目

最後に、演習の中身そのものにも2つ、目を留めておきたい点がある。第一に「場所」だ。黄海は中国にとって首都・北京の海の玄関口であり、朝鮮半島と山東半島に挟まれた、いわば中露にとって最も安全な内懐(うちぶところ)の海域である。日本近海や西太平洋で演習を行った年と比べれば、場所の選択そのものは抑制的とも読める。ただし前述のとおり、演習後の合同パトロールが太平洋へ出てくるなら、「演習は内懐で、示威は外洋で」という組み合わせになる。メッセージの受け手として想定されているのが誰なのかは、パトロールの航路が教えてくれるだろう。

第二に「科目」だ。今回の訓練には、深海救難艇で遭難潜水艦の乗員を救助するという、実務色の濃い科目が含まれている。潜水艦救難は高度な調整を要する分野で、互いの艦や装備を接触させる訓練は、両海軍の相互運用性——つまり一緒に行動できる度合い——を測る物差しになる。対潜戦・防空・合同砲撃という「戦う」科目と、捜索救難という「助ける」科目の双方で連携の練度を積み上げていることは、中露の海軍協力が儀礼的な寄港交流の段階をとうに越えていることを示している。もっとも、両国は同盟条約を結んでいるわけではなく、指揮系統も別々だ。「演習で息を合わせられること」と「実戦で一体として動くこと」の間には、なお大きな距離があることも、あわせて押さえておきたい。

今後の注目点

短期的な注目点は2つある。第一に、演習終了後の中露艦艇の航路だ。過去の「合同海上パトロール」の例にならえば、今後数日から数週間のうちに、統合幕僚監部が対馬海峡や大隅海峡、あるいは津軽海峡での中露艦艇の通過を公表する可能性がある。第二に、西太平洋に展開した4個編隊がいつ、どのように戻るかである。台風避難説が正しければ隻数は比較的速やかに平常水準へ戻るはずで、逆に高水準が続くなら、「熱季」の演習サイクルを超えた態勢の変化を疑う材料になる。数字は一度の発表ではなく、推移で読む必要がある。当ラボでも継続して追っていきたい。

脚注・参考文献

  1. TASS, “Russia-China Joint Sea-2026 drills open in Qingdao,” 2026-07-06. https://tass.com/defense/2156007
  2. The Japan News / Asia News Network, “China, Russia begin ‘Joint Sea 2026’ naval exercise off coast of Qingdao,” 2026-07-08. asianews.network
  3. 産経新聞「中国軍艦・海警船110隻超が展開 台湾の国家安全会議トップが地図公開」2026-07-04. sankei.com/中央社(CNA)「吳釗燮:中國沿第一島鏈部署逾110艘船艦 創歷史新高」2026-07-04. cna.com.tw
  4. フォーカス台湾「西太平洋で四つの編隊が活動 中国軍の艦船動員増加傾向=国家安全局長」2026-07-06. japan.focustaiwan.tw
  5. 震傳媒「中共逾110艘船艦部署第一島鏈 蔡明彥:演訓熱季動員」2026-07-06. zmedia.com.tw(台風避難説は同記事中の張競・中華戦略学会研究員の見解)

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この記事を書いた人
河野 通(かわの とおる/Veruhu)

日本戦略防衛研究ラボ(JSDL)主宰。公開情報(OSINT)をもとに、世界の軍事・安全保障情勢を一個人として調査・分析し、発信しています。運営者について →