独立系安全保障シンクタンク | 情勢分析・研究論文 日本語EN
日本戦略防衛研究ラボ Japan Strategic Defense Research Lab
RESEARCH & ANALYSIS
EST. 2026
解説
基礎解説 | 無人機・ウクライナ戦争

【解説】FPVドローンを「どう落とす」のか ― ネットガンから迎撃ドローンまで、対抗手段の階層

ウクライナ軍のFPV攻撃ドローン
画像: ウクライナ軍のFPV(一人称視点)攻撃ドローン。安価で大量に飛ばせる一方、光ファイバー化で「電波妨害が効かない」やっかいな脅威になっている。© АрміяInform, CC BY 4.0, via Wikimedia Commons

別稿「光ファイバーFPVドローンとは」で見たとおり、細い光ファイバーの糸で操縦するFPVドローンは、電波妨害(ジャミング)がまったく効かない。従来、無人機対策の主役だった電子戦が通じない――となれば、残された道は「物理的に落とす」ことだ。いま、ウクライナとロシアの前線では、網で絡めとるネットガン、道路に張る防護ネット、自動で網を撃つ砲塔、そして体当たりで壊す迎撃ドローンまで、ありとあらゆる「物理的に落とす」手段が猛烈な勢いで生まれている。本稿では、これらを「探知→判断→無力化」という防御の階層に沿って整理し、それぞれの長所と限界を、なるべく分かりやすく解説する。

200ドル未満
ネットガンの価格
約30m
ネットガンの有効距離
3.5〜4m
広がる網のサイズ
最後の一手
近接防御の位置づけ

なぜ「物理的に落とす」しかないのか

2024年初めに前線へ本格登場した光ファイバー式FPVドローンは、操縦の指令と映像を電波ではなく細い糸で送受信する。そのため、これまで無人機を無力化してきた電波妨害装置(ジャマー)が原理的に効かない。相手の「目」と「手綱」を電波的に断ち切れないなら、飛んでくる機体そのものを、網・弾・体当たりといった物理的な手段で止めるしかない。ここに、対ドローン兵器が「ソフトキル(電子的に無力化)」から「ハードキル(物理的に破壊・捕獲)」へと軸足を移した理由がある。以下では、遠くで気づく層から、目の前で仕留める層まで、順に見ていこう。

図:対FPVドローン防御の階層(探知→判断→無力化)

① 探知する ② 判断する ③ 無力化する 音響センサー プロペラ音を聞き分ける レーダー・光学 位置・速度・距離を測る 見張り(人) 近接では目視が最後の頼り 脅威か味方か 距離・接近方向 AIが照合・追尾する例も 防護ネット(受動) ネットガン(近接) 自律ネット砲塔 迎撃ドローン(体当たり)
図:ウクライナ・ロシア前線で用いられている対ドローン手段を、JSDLが「探知→判断→無力化」の階層で整理。個々の装備は各報道に基づく(本文参照)。

前提の層:まず「気づく」こと ― 音とレーダーで探す

どんな無力化の手段も、飛来に気づけなければ使えない。だから対ドローン防御の出発点は「探知」だ。小型のFPVドローンは、レーダーに映りにくく、目視でも見つけづらい。そこで前線で注目されているのが、プロペラや小型エンジンが立てる特有の「音」を手がかりにする音響センサーである。ウクライナでは、多数のマイクを網の目のように配置してドローンの接近方向を割り出す音響探知網(「スカイ・フォートレス」や「ズヴーク(Zvook)」といった名で知られる)が運用されているとされる。加えて、小型の対空レーダーがドローンの位置・速度を捉え、無力化の手段に情報を渡す。前節の図で示した「探知→判断→無力化」のうち、この探知の質が全体の成否を左右する。安いドローンを安く落とすには、まず「安く・広く気づく」仕組みが要るのだ。

第1層:防護ネット ― 道や塹壕に「張る」受動防御

もっとも素朴で、いま前線に広がっているのが、物理的な防護ネットだ。ウクライナでは主要な補給路の上に長大なネットの「トンネル」を張り、上空から突っ込んでくるFPVドローンを、目標に到達する前に絡めとる工夫が進んでいる。仕掛けさえすれば人手を張り付けずに守れる「受動防御」で、費用も比較的安い。一方で、ネットを張れる場所は道路や陣地の周りに限られ、機動する部隊や個々の兵士を守るには向かない。あくまで「面」を守る第一層である。

第2層:ネットガン ― 「最後の一手」の携行兵器

個々の兵士が携行し、目の前まで迫ったドローンを撃ち落とすのがネットガンだ。ピストルのような発射器から網を撃ち出し、網は3.5〜4メートルほどに広がって、最大およそ30メートル以内のドローンを絡めて落とす。価格は200ドル未満と安く、大量配備しやすい。ウクライナのプタシュカ(Ptashka)製の小型ネットランチャーなどが知られ、ウクライナ軍の一部旅団では、機関銃・ショットガンと並ぶ標準的な対ドローン装備になりつつある。別系統では、ウクライナのブルーバード・テック社が開発した「チパ(Chipa)」が、3×3メートルの網を最大25メートルまで飛ばしFPVのプロペラを絡めとる、とされる。

ただし、関係者はネットガンを一貫して「最後の一手(last resort)」と位置づける。対ドローン装置をウクライナ軍に供給するチェコの支援団体の担当者は、約500丁のネットガンを届け、約40機の撃墜例を聞いたとしつつ、「これは、ほかのすべてが失敗し、敵ドローンが兵士や陣地への飛行の最終段階に入ったときの武器だ」と述べている。弱点も明確で、単発式のため装填が遅く、事実上「一発勝負」になりがちだ。前線の一部では「一過性の流行に終わるのでは」との見方もあり、決定打とは言い切れない発展途上の道具である。それでも需要は伸び続けており、供給が追いつかないほどだという。安価で、電波妨害に頼らず、兵士一人ひとりが最後の砦として持てる――この手軽さこそが、決定打でないと知りつつ前線が手放せない理由になっている。

ネットガンの長所と限界(公開情報より)

  • 長所:安価(200ドル未満)/軽量・携行できる/電波妨害に頼らず物理的に止める。
  • 限界:射程が短い(〜30m)/単発で装填が遅い=実質一発勝負/「最後の一手」で、これ一つでは守り切れない。

第3層:自律ネット砲塔 ― 人の反応速度を超える

「一発勝負」で「反応が遅い」という人手のネットガンの弱点を、機械で補おうとするのが自律型のネット砲塔だ。ウクライナで登場した「スキャン・ホライズン(Scan Horizon)」と呼ばれるシステムは、AIを使ったマイク(音響センサー)の配列で最大およそ20メートル先の脅威を受動的に検知し、光学カメラで視覚的に確認、レーダーで距離と速度を割り出したうえで、約6メートルの距離に網を撃ち出す、とされる。人間が音を聞いて、見て、狙って撃つ――という一連の動作を自動化することで、低空を高速で突っ込んでくるドローンにも反応しようという発想である。探知(音響・光学・レーダー)と無力化(網)を一つの機械に統合した、いわば「小さな対ドローン防御システム」だ。

ウクライナ軍のFPVドローン群
画像: 前線で大量に使われるFPV攻撃ドローン。数と安さで押し寄せる脅威に、守る側は「安く・数多く落とす」手段を迫られている。© АрміяInform, CC BY 4.0, via Wikimedia Commons

第4層:迎撃ドローン ― 「ドローンでドローンを狩る」

もっとも積極的な対抗策が、こちらから飛ばして敵機に体当たりする迎撃ドローンだ。ロシア側では、「エルカ(Elka=もみの木)」と呼ばれる迎撃機がこの春から広く採用されつつあると報じられている。エルカは爆薬(弾頭)を持たず、自らの勢いと、補強された「トゲ状の先端」で敵ドローンの機体を砕くという。ピストル型の発射器から撃ち出し、飛行目標をロックオンすれば、最大1.6キロ先まで自律的に追尾する。撃った後は操縦者との通信が要らない「撃ちっぱなし(fire-and-forget)」方式のため、飛行中に電波妨害を受けない――皮肉にも、FPVドローンを苦しめた「妨害されない」という性質を、迎撃側が逆手に取った形だ。推定価格は1機500ドル程度とされる。

もっとも万能ではない。流出したとされる取扱いの手引きによれば、エルカは素材の関係で丁寧な取り扱いが必要で、使えるのは日中・乾いた天候に限られ、澄んだ(または曇りの)空を背景にした目標にしかロックオンできないとされる。低く、不規則に、雑然とした背景の前を飛ぶドローンは捉えにくい。ウクライナ側もAIを積んだ迎撃ドローンの開発を進めており、2026年7月には、ある防衛技術企業がFPV迎撃用の小型防空システムやAI迎撃機を含む多数の対ドローン装備をまとめて公開した。「ドローンでドローンを狩る」競争は、いま最も激しく技術が入れ替わっている領域である。

まとめ ― 「安く・数多く落とす」ことの難しさ

ここまで見てきたように、FPVドローン対策に「これ一つで解決」という魔法の杖はない。防護ネットで面を守り、ネットガンで最後の一撃に備え、自律砲塔で反応速度を補い、迎撃ドローンで遠くから狩る――複数の層を重ねて、初めて生存性が上がる。共通する課題は「コスト」だ。数百ドルの攻撃ドローンを、それと同等かより安い手段で、しかも数多く落とし続けられるか。高価な地対空ミサイルで一機ずつ撃ち落としていては、経済的に割に合わない(=コスト交換比の問題)。だからこそ、200ドルの網や500ドルの迎撃機といった「安さ」が真剣に追求されている。この対ドローン防御の階層という考え方は、ウクライナの前線だけの話ではない。安価な無人機の脅威は世界の軍隊が直面する共通課題であり、日本を含む各国が、まさにこの「安く・数多く落とす」難題に向き合い始めている。

もう一つ、この対ドローン競争から見えてくるのは、「攻める側と守る側の絶え間ないいたちごっこ」という戦争の普遍的な構図だ。守る側がネットガンを配れば、攻める側は網の届かない高度から急降下する。守る側が音響センサーで聞き耳を立てれば、攻める側はより静かなモーターや滑空を工夫する。エルカ迎撃機の弱点(澄んだ空でしか狙えない)が示すように、いま有効な手段も、相手が飛び方を変えれば通用しなくなる。だからこそ、単一の万能兵器ではなく、探知・判断・無力化を重ねた「層」で守るという発想が重要になる。ウクライナの前線で日々更新されるこの攻防は、無人機時代の防御が「一発の解決策」ではなく「継続的な適応」であることを、生々しく教えている。脅威の側の仕組みについては、あわせて光ファイバーFPVドローンの解説もご覧いただきたい。

← 解説一覧へ戻る

この記事を書いた人
河野 通(かわの とおる/Veruhu)

日本戦略防衛研究ラボ(JSDL)主宰。公開情報(OSINT)をもとに、世界の軍事・安全保障情勢を一個人として調査・分析し、発信しています。運営者について →