独立系安全保障シンクタンク | 情勢分析・研究論文 日本語EN
日本戦略防衛研究ラボ Japan Strategic Defense Research Lab
RESEARCH & ANALYSIS
EST. 2026
軍事ニュース | 防衛産業・制度

防衛装備工場の「国有化」へ法整備検討 ― 現行法で何ができて、何が変わるのか

米スクラントン陸軍弾薬工場の155mm砲弾生産ライン
画像: 米スクラントン陸軍弾薬工場の155mm砲弾生産ライン(2024年、参考写真)。同工場は「国が施設を保有し、民間企業が運営する」GOCO方式の代表例で、日本政府が検討する「国有民営」の先行モデルにあたる。CC0(ウクライナ大統領府), via Wikimedia Commons

政府が、弾薬など防衛装備品の生産工場の「国有化」に向けた法案を、来年(2027年)の通常国会に提出する調整に入ったと報じられた。国が製造に必要な土地や設備を取得したうえで、運営は民間に委託する——いわゆる「国有民営」方式が有力とされる。7月に策定される経済財政運営の指針「骨太の方針」にも、法整備の検討が明記される方向だ。もっとも、「国が工場を取得する」制度自体は、実は2023年施行の防衛生産基盤強化法にすでに存在する。では今回の見直しで何が変わるのか。現行制度の中身から順に、制度のビフォー・アフターで整理する。

何が報じられたか

共同通信の報道(6月24日)によれば、政府は「弾薬など防衛装備品の生産工場の国有化に向けた法案を来年の通常国会に提出する調整に入った」。方式としては「国が装備の製造に必要な土地や設備を取得した上で、民間に運営を委託する案が有力」で、狙いは「4年を超えるロシアによるウクライナ侵攻を教訓とし、有事の際に戦闘を継続する能力を確保する」こととされる1

制度の入口になるのが、7月に政府が策定する「骨太の方針」だ。素案の段階では、継戦能力(長期にわたり戦い続ける能力)の確保に向けた取り組みの強化として「防衛生産基盤強化法の見直し」に言及し、弾薬など安定供給が難しい「重要装備品」の製造への「国の関与」を検討する、という書きぶりが報じられている。あわせて、防衛装備品の増産や輸出を主導する「国の関与を担保した法人」の設置や、防衛省の組織の「抜本的強化」も盛り込まれる方向と報じられており23、生産基盤・輸出・組織の三点セットで防衛産業政策の制度全体が動き出している格好だ(後述)。

現行制度の確認 ― 「国による工場取得」はすでに可能

ここで押さえておきたいのは、「国が防衛装備の工場を取得する」枠組みが今回初めて登場するわけではない、という点である。2023年に成立し同年10月に施行された防衛生産基盤強化法は、装備品の安定製造が困難になった場合の最終手段として、国による製造施設等の取得をすでに認めている。防衛白書は、この制度を次のように説明している。

各種取組では防衛省による指定装備品等の安定的な調達ができないと判断される場合には、当該指定装備品等の製造等をする施設や設備を防衛省が取得することができる。取得した製造施設等は、事業者が指定装備品等の製造等のために防衛省から委託を受けてその管理を行う。

防衛省『令和6年版 防衛白書』第4章(防衛生産・技術基盤)2024年 出典

つまり「国が施設を持ち、民間が運営する」形は現行法でも可能で、白書も「本制度を適用した場合でも事業主体は民間企業」と明記している。ではなぜ法改正が必要なのか。共同通信によれば、現行法は取得した施設について「できるだけ早期に装備品製造等事業者に譲渡するよう努める」と定めており、国有はあくまで一時的な措置と位置づけられているためだ。撤退企業の救済的な受け皿としては機能しても、長期戦を想定して国が計画的に生産基盤を保有し続ける制度にはなっていない。今回の見直しは、この「一時的」の縛りを外し、平時から国有工場を恒常的に維持できる制度への転換を図るものと報じられている1

ビフォー・アフターで見る制度の変化(報道ベース)

項目現行(防衛生産基盤強化法・2023年)見直し後の方向性(報道)
国による施設取得可能。ただし安定調達ができないと判断される場合の最終手段有事の増産を見据え、より積極的に取得できる枠組みへ
保有期間「できるだけ早期に」事業者へ譲渡するよう努める=一時的措置長期戦に備え、恒常的に国有を続けられる制度へ
運営主体民間企業(国から管理を受託)同じく民間委託=「国有民営」を維持
輸出の担い手個別企業ベース国の関与を担保した法人を設立し、増産・輸出を主導

表:現行法の内容は防衛白書・防衛省資料、見直しの方向性は共同通信・TBS等の報道に基づくJSDL整理。法案は未提出であり、今後変わる可能性がある。

なぜ弾薬か ― ウクライナが突き付けた「継戦能力」の現実

見直しの背景として各報道が共通して挙げるのが、4年を超えたロシアのウクライナ侵攻である。この戦争は、現代の国家間戦争が数週間では終わらず、砲弾・ミサイル・ドローンを大量に消費し続ける「消耗戦」になり得ることを示した。欧米はウクライナ支援で自国の弾薬備蓄を吐き出し、増産体制の構築に苦しんだ。冒頭の写真に挙げた米スクラントン陸軍弾薬工場——国が施設を保有し民間が運営する方式で155mm砲弾を量産する——が象徴するように、有事の増産は「平時から生産ラインと熟練工を維持しておく」ことなしには実現しない。

日本の場合、事情はさらに切実だ。防衛産業は装備品ごとに少数の企業に依存しており、採算性の低さから撤退する企業が相次いできた。撤退企業の製造設備を引き継ぐ企業が現れなければ、その装備品の国内生産基盤そのものが失われる。2023年の防衛生産基盤強化法はまさにこの撤退問題への対処として作られたが、今回の見直しは一歩進めて、「失われないよう受け止める」から「有事に増やせるよう平時から備える」への転換を意図していると読める。

制度見直しの工程(報道ベース)

2023年10月
防衛生産基盤強化法が施行。国による製造施設取得(最終手段・一時的)が可能に
2026年3月
政府が装備品工場の国有化検討と報道(国家安保戦略など安保3文書改定の議論と並行)
2026年6月
骨太の方針素案に「防衛生産基盤強化法の見直し」「国の関与」明記と報道
2026年7月
骨太の方針を策定(法整備の検討を明記する方向)。防衛省の組織「抜本的強化」も記載予定
2027年通常国会
国有化を可能にする法案を提出する調整(報道)。成立すれば2027年度以降に制度化へ

工場だけではない ― 輸出法人と防衛省の新局

今回の骨太の方針で動くのは、工場の国有化だけではない。TBSの報道によれば、原案には「5年以内に防衛力を変革する」との方向性が掲げられ、AIやドローンを活用した「新しい戦い方」への適応が打ち出される。そのうえで、防衛装備品の増産や海外への輸出を主導する主体として、「国の関与を担保した法人」の設置の検討が明記されるという2。今年4月に規制が緩和された装備品輸出を、個別企業任せにせず、国が後ろ盾となる法人が窓口となって進める構想だ。装備品の輸出は生産ロットを増やして単価を下げ、国内の生産基盤を支える効果も期待されるため、「国有工場」と「輸出法人」は継戦能力という同じ目的の両輪と位置づけられる。

実施体制の側も強化される。朝日新聞によれば、防衛省は他国との防衛協力など国際関係の政策を担う「国際政策局」(仮称)の新設を調整しており、施設整備を担当する局の新設も要求する方向だ。退職自衛隊員らを支援する組織の新設も盛り込まれる見通しで、骨太の方針には新局増設を念頭に「防衛省の組織を抜本的に強化する」と記される予定だという3。生産基盤(工場)・販路(輸出法人)・行政組織(新局)の三点を同時に動かす、防衛産業政策としては近年最大級の制度改革パッケージといえる。

論点 ― 「国有民営」への賛否

この構想には賛否の両論がある。推進側の論理は明快で、市場原理に任せていては維持できない生産基盤を、安全保障上の必要から国が支える、というものだ。米国のGOCO(Government-Owned, Contractor-Operated:政府保有・請負運営)方式のように、主要国には国が弾薬工場を保有する先例がある。

一方で批判もある。地方紙の社説には「平和国家の名に値しない」と正面から反対するものがあり、武器製造への国の直接関与は憲法の平和主義と相いれないとする論調も見られる4。また、国有化の対象・基準・費用が現時点で明確でないことも事実で、どの装備品を「重要装備品」として国が抱えるのか、財政負担はどこまで膨らむのか、国会審議で問われることになる。防衛費がGDP比2%へ向かう中での新たな財政支出である以上、「必要性」と「歯止め」の両方の議論が要る。法案の具体的な条文が出てくるまでは、報道ベースの方向性として理解しておくのが正確だろう。

いずれにせよ、防衛産業を「特別な民間産業」として扱ってきた戦後日本の枠組みが、大きな曲がり角に来ていることは間違いない。戦前の工廠(こうしょう)制度の復活と単純に重ねる議論は乱暴だが、「国が生産基盤にどこまで関与するか」という問いが、80年ぶりに正面から制度設計の俎上に載ったことの意味は小さくない。法案の提出時期・中身とあわせ、当ラボでも継続して追っていく。

この記事の要点

  • 政府は防衛装備品工場の国有化を可能にする法案を2027年通常国会に提出する調整に入ったと報道。7月策定の骨太の方針に法整備の検討を明記する方向。
  • 国が土地・設備を取得し運営は民間に委託する「国有民営」方式が有力。米国のGOCO方式に近い。
  • 現行の防衛生産基盤強化法(2023年)でも国による施設取得は可能だが、「早期譲渡に努める」一時的措置にとどまる。見直しはこの縛りを外す方向。
  • あわせて輸出を主導する法人の設置、防衛省の新局増設も検討。賛否両論があり、対象・費用・歯止めは今後の国会審議の焦点。

脚注・参考文献

  1. 共同通信(東京新聞掲載)「防衛装備工場の国有化を骨太明記 継戦能力確保」2026-06-24. tokyo-np.co.jp
  2. TBS CROSS DIG with Bloomberg「政府、防衛装備品工場の“国有化”念頭に法案見直し視野 骨太の方針原案」2026-06-27. newsdig.tbs.co.jp
  3. 朝日新聞「防衛省、新たな局の増設検討 骨太の方針に組織の『抜本的強化』」2026-07-07. asahi.com
  4. 琉球新報社説「防衛装備品工場の国有化 平和国家の名に値しない」2026-06-27. ryukyushimpo.jp

← ニュース一覧へ戻る

この記事を書いた人
河野 通(かわの とおる/Veruhu)

日本戦略防衛研究ラボ(JSDL)主宰。公開情報(OSINT)をもとに、世界の軍事・安全保障情勢を一個人として調査・分析し、発信しています。運営者について →